タイルはく落防止工事の基礎知識

タイルについて学びましょう

タイルは意匠性、耐久性に優れた建築資材です。しかし建築資材の優等生も、扱いを間違うと・・・?
まずはタイルについて学びましょう。

タイルに関する基礎知識

タイルって一体何?

タイルというのは、英語ではtileと書き、その語源はラテン語のテグラtegulaで、物を覆うという意味のことばです。タイルは、この語源のとおり、建物の壁や床を覆う陶磁器製の建築材料のことを指します(業界用語)。
広辞苑では「壁または床にはる小片状の薄板」と説明されていて、広い意味では、材質は不問です。そのため、タイルカーペット、Pタイルなどやきもの以外で正方形をした壁または床にはる小片状の薄板のものを、○○○タイルと呼ぶことがあります。

建物の外装材として用いられるタイルは、主に陶磁器質タイルです。これは土を焼きだして製造されるもので、レンガのように耐水性、耐熱性、耐候性に優れています。
焼きだされたタイルはモルタル、コンクリートなど外壁に張り付けられ建物の外装になります。

タイル張りの建物の種類とその性質

タイル張りの建物には様々な種類がありますが、建築技術の観点では以下のように分類できます。

接着工法によるタイル張り建物の分類
乾式工法(サイディング)

工場生産された既製部材や木材などを、壁面全体を一枚の板としてボルトなどで物理的に取り付けるもの。工期が短く、施工性も良く、工期の短縮化がはかれるのが特徴。 この板状の外壁材を総称して、サイディングといわれています。実際にはタイル風の板と考えてよいでしょう。

湿式工法(塗り壁)

下地モルタルを左官工事で仕上げた上に塗材や吹付・タイル張りなどで外装仕上げを行う工法です。手作業で仕上げていくため、味わいのある壁面が得られ、いろいろなデザイン性壁に対応できます。なお、コンクリートの境界面の整地性の向上によりモルタルを用いずタイルを直接コンクリートに張り付けた(図のA,Bがない)接着剤による直張り工法も近年普及し、広義には湿式工法と呼ばれます。

目地によるタイル張り建物の分類

目地とはタイル部材の間の繋ぎ目のことです。目地もタイル張り建造物の特性を決める重要な役割を担っています。目地は外観だけでなく、建物の耐久性にも大きく影響を与えます。目地の有無で2つにわかれます。

目地なしの場合

目地なしと言っても、わずかな隙間をつくります。隙間を全く設けずに施工すると、地震時のタイルの割れの原因などになります。床や水回りの場合は、ごみや水が入り込むのを防ぐために目地材を使う必要がありますが、壁の場合(水回り以外)は、目地なしの施工も可能です。

目地ありの場合

目地材には、タイルの裏面への水の浸入を防ぎタイルのはがれや浮き上がりの防止、タイル同士の接触防止、押さえ、微妙なサイズの違いを吸収する役割があります。目地材は、モルタルやセメント、樹脂系の目地材が使われます。モルタルやセメントの場合は、成分の安全性は高いが、目地が割れる可能性があります。樹脂系の場合は、樹脂モノマーの揮発や防カビ剤などの含有の危険性も疑われますが、弾性があり建物の動きにも追従できるので、割れや剥離対応になります。

ビル・マンションなどの建築物のタイル張りでは、湿式工法・目地ありのものが主流です。これは複雑に建築資材が絡み合っている構造で、それゆえに構造的な弱点を抱えます。

タイル張り建築物の劣化とはく落

日本建築防災協会の統計資料(外壁タイル張りの耐震診断と安全性対策指針・同解説の付-5外壁タイル張りの剥離・剥落故障例 1998年発行)によれば、タイル張り外壁の故障が確認されるまでの経過年数は平均13.6年と報告されています。

タイルはそれ自身は非常に耐久性能の高い優れた建築素材です。タイルが数千年以上前の遺跡から発見された例もあり、陶磁器質であるタイル自身の耐久性は疑うまでもありません。ではなぜ十数年でタイル張り外壁で故障が確認されるのでしょうか?

タイルの劣化の原因
構造的原因

先に述べたようにタイル張り外壁は、タイル、モルタル、コンクリート躯体で構成された何層かの積層構造となっています。これらの材料が外部からの温度変化、日射、雨水を受けると、材料の温湿度膨張率の違いによって、各材料各層ごとに異なった伸縮が発生します。この動きは、材料間に歪みを発生させ、経年によりこの歪みは蓄積していき、タイルや目地材のひび割れや、浮きにつながります。この劣化は避けることができません。

施工不良

施工の不良が原因となるケースもあります。現在も多く採用されているモルタル下地のタイル張りはタイル1つ1つを手張りしていきます。一見簡単そうに見えますが、モルタルの塗りは薄すぎると滑る力が発生してしまい、厚すぎても歪みに対応する力が増加し剥離しやすくなります。またタイルを張るタイミングは天候を見て適切なタイミングで張り付ける必要があるなど、熟練の技を必要とします。良くない施工により貼付けられたタイルははがれ落ちやすくなります。

材料3割施工7割?

防水・補強などの外壁改修工事には良い材料が必要です。
しかし、最終的に工事が良いものになるかは施工の良し悪しで決まります。 その比率は一般に「材料3割施工7割」などと言われたります。
いかに優れた材料であろうとも、例えば塗りが甘かったりなど施工がいい加減であるならばその性能は発揮できません。
ボンドアクアバインド工法でもタイルはく落防止層は1mmに満たない厚さです。
施工は技術です。お客様に満足いただけるよう弊社はプロの工事屋として挟持を持って日々研鑽を積んでおります。
弊社の仕事に関する意識については、 弊社ウェブサイトコラムをご覧ください

タイルの劣化現象の種類

タイル外壁に現れる劣化現象の種類とその特徴は大きく以下の様に分類できます。目視で確認できるものもあります。適切なタイミングではく落防止措置を取れるよう、注意しておくことが必要です。

汚れ 表面的な粉塵の付着は問題ないが、タイル裏面への漏水による汚れはタイルの付着を阻害する可能性があります。
水濡れ タイル表面が常に濡れているような場合は、防水層の損傷の可能性があります。
タイル裏面への漏水が発生していないか注意する必要があります。
錆の付着 タイル表面に錆や錆色の水が付着したり流下している場合は、タイル周辺の建築材から流れてきている可能性があります。
錆は歪んだ膨張圧を発生させるため注意が必要です。
白華(エフロレッセンス) タイル表面や目地に白色の析出物が付着することがあります。
これは壁材であるコンクリートやモルタルの石灰質が溶け出したことによるものです。
ひび割れ タイルのひびわれはタイルを張り付けている下地や躯体が原因で起こることがあります。
ひび割れたタイルはいずれはく落します。
浮き タイルが既にはく離している状態です。極めて危険な状態で早急なはく落対策が必要です。
大きな壁面で特に発生しやすいです。

ひび、割れ、欠損、錆などから始まるタイルの劣化は、やがてタイルをはく離させ、はく落につながります。対応が必要です。

タイルはく落防止対策の必要性と義務

タイル張り外壁は経年で劣化し、よごれや錆などであっても、劣化を放置し続けるといずれ剥落します。
建築物の所有者・管理者には建築基準法により保全義務が課されており、これは国土交通省の定める定期報告制度として運用されています。この制度は近年のタイル張り建物の増加と、
タイルはく落事故の増加を受け平成20年に改定され、外壁タイルの剥落防止義務が強化されています。これは刑事罰を盛り込んでおり注意が必要です。

タイルはく落による事故

事故は他人事ではありません。直近のタイルはく落事故の件数と例です。

タイルはく落防止のための定期報告制度とその改正(平成20年、建築基準法)

定期報告制度とは、建築基準法で定められた、建築物の安全性を保つための検査制度です。

建築基準法の第8条に『建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な 状態に維持するように努めなければならない。』と定められており、
第12条に『資格を有する者にその状況の調査をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。』と定められています。

平成20年には「 建築基準法施行規則の一部を改正する省令」が出され、特殊建築物等の外装タイル等の劣化・損傷については、

  • 手の届く範囲を打診,その他を目視で調査し,異常があれば全面打診等により調査する
  • 竣工,外壁改修等から10年を経てから最初の調査の際に全面打診等により調査する

と、内容・手法が厳しく定められたほか、建築物の所有者・管理者が調査・検査結果の報告義務を怠った際の罰則が定められました。
この制度改正により、これまで以上に適切な調査保全が求められるものと考えられます。
定期報告制度の運用は自治体ごとに異なっており、外装仕上材の条件や、外壁改修の履歴・計画がある場合など、条件を確認して実施する必要があります。

兵庫県の定期報告制度

定期報告の対象となる建築物は自治体によって指定されます。兵庫県では定期報告を要する建築物、建築設備等及びその報告時期については、特定行政庁(神戸市、尼崎市、姫路市、西宮市、伊丹市、明石市、加古川市、宝塚市、川西市、三田市、芦屋市、高砂市、これら以外の市町の区域は兵庫県がそれぞれ規則で定めることになっています。但し、神戸市を除く特定行政庁では定期報告制度の運用を兵庫県に委託しているため、実際には 神戸市以外 神戸市で2つに分かれていると考えてよいでしょう。 詳細はリンク先をご覧ください

タイルはく落防止工事とは?

では、タイルのはく落防止にはどういう工事が必要でしょうか。タイルのはく落に効果が有るのは勿論のこと、定期報告制度の基準を満たした工事である必要があります。

これは事後保全、予防保全の2つの観点から工事を考えてみる必要があります。

タイルの劣化を止める工事(事後保全)

タイルの劣化は、タイルや目地のひび、割れ、欠損や浮きなどから始まります。こうしたすでに劣化が発生している箇所を調査・特定し、それ以上破損劣化が進行しないよう対象箇所に対策を講じる工事です。
問題の発生を確認してからの対処であるため、これを事後保全と呼びます。
タイルの劣化がいままさに確認できた場合は、早急な対策が必要です。
劣化改修工事に有効な工法は、国土交通省の「 公共建築改修工事標準仕様書」や都市再生機構の「 保全工事共通仕様書で代表的なものが紹介されています。(以下抜粋、要約)

タイルの浮きに対する工事

タイルの浮きにはタイル用の専用アンカーピンを打ち込み固定します。ピンには接着剤を内部に流し込むための注入口が付いている事が多く、内部から浮き面積の拡大する効果があります。しっかりと接着させるため一度タイル面に穴を空け内部に接着剤を注入します。ひび割れの大きさや発生部位の性質に応じて2つの工法があります。

エポキシ樹脂注入工法

エポキシ樹脂という接着力・耐腐食性に優れたプラスチックの一種を充填剤として浮き部分に注入します。大規模補修工事では注入の機械化が進んできましたが、ひび割れの内部まで適切に充填剤を浸透させることが難しく、通常は一枚一枚手作業で行うものであり、施工者の施工技術により出来が左右されます。

ボンドMGアンカーピン工法(コニシ工業会員責任施工工法)

陶片が浮いているタイルを特殊アンカーピン(MGアンカーピン)を用いて、躯体と固定する工法です。タイル中央に穴を開けて、1枚1枚をステンレスピンで固定していきます。

タイルの欠損に対する工事

欠損したタイルは張替えが必要です。同一素材の新規タイルで欠損したタイル及びその周辺を張替えます。張替え面積の大きさや下地モルタルの存在の有無によって、密着張り・改良積み上げ張り・改良圧着張り・マスク張り・モザイク張り等の様々な工法があります。

タイルのひび割れに対する工事

タイルのひび割れはタイル劣化の中でも特に深刻なケースが多いため注意が必要です。細かなひびであっても、実際にはタイル下地からの挙動によりひび割れが発生している可能性があります。そのため、基本的にはタイルの張り替えが推奨されます。
危険性の高い大きなひび割れについては、タイルを一度剥がし、下地を補修した上でタイルを張り直します。
写真はタイルひび割れ箇所を撤去し、躯体ひび割れを補修した上で塗膜防水処理を施した時の写真です。この後タイル下地を作ってタイルを張り戻しました。


以上のような工事は、いままさに劣化が発生しているタイルに対して必要です。しかし特定箇所のみを修繕するやり方は、改修箇所以外は手付かずで不安が残ります。また改修箇所であっても経年で再び劣化が進行する可能性があります。
特に、都市部や商業地域での人の往来や立ち入りが多い建物や、マンション・ビルディングなど高さがある建物では、事後的な考え方だけでは十分とは言えません。何があってもタイルをはく落させない、予防の考え方(予防保全)が必要です。

難しい外壁はく落対策

ビル外壁崩落 2人重軽傷(平成17年ニューリバービル事件)
14日午後零時40分頃、東京都中央区新川のオフィスビル「ニューリバービル」(地上8階、地下1階建て)の5階から6階部分の外壁が崩れ落ち、近くを歩いていた同ビル1階の会社に勤務する女性(40歳)に破片が直撃した。 女性は頭を打って重症。乗用車で通過中の男性(53歳)も急ブレーキをかけた際に、右ひざを打ち軽症を負った。警視庁中央署の調べでは、崩落したのはコンクリートとタイル製の外壁が斜めになった部分。高さ約7m、幅約5m、厚さ約5cmにわたり、重さ計900㎏が剥がれ落ち、破片が女性の頭や男性の車を直撃、車体に突き刺さった。ビルは築15年で、崩落当時、工事などはしていなかった。同署は現場を立ち入り禁止にするとともに、崩落原因を調べている。(引用:産経新聞)

タイルの剥落事故として大きく話題になったこの事件ですが、社団法人全国タイル業協会の見解によると原因はタイル施工ではなく、防水層とコンクリート躯体の接着力の低下(図のAの箇所)でした。建造物は積層構造で見かけよりはるかに複雑な構造をとっています。事故を未然に防ぐためには、予防的にあらゆる可能性を視野に入れた対策が必要です。

タイルのはく落を予防する工事(予防保全)

幾度にわたる大震災や大規模水害は、建物の安全性についての意識改革を促しました。
それまでの柱や躯体などの建物の主体的部材だけでなく、外壁や天井などの非構造部材についても高い安全性が求められるようになりました。
現在、日本建築学会建築工事標準仕様書には、タイルのはく落の安全性について、「タイル張り工法においては、剥落の危険を防止することが優先的に要求される性能であり、これを確保する。その上で美装性、躯体保護性、メンテナンス性を確保する。」と明記されています。

この予防保全の意識の高まりから、様々なタイルはく離はく落防止工法が研究されています。
これらの多くは従来工法に加え様々な新工法を加えているため、「外壁複合改修工法」としばしば呼ばれます。
大規模改修工事や、定期報告制度の対象建築物の改修にはこの「外壁複合改修工法」が推奨されます。
ボンドアクアバインド工法は「外壁複合改修工法」の一種です

様々な外壁複合改修工法

外壁複合改修工法は、先の特定の劣化箇所に対する補修と違い、基本的に一定面積以上または壁面全面を対象とする改修工法です。
これは、既存のタイル面を剥がして新規に外壁をしつらえるかどうか。つまり、

  1. 既存のタイル壁面をつぶし新たに新規タイル張りや仕上げを行う工法(全面張り替え)
  2. 既存のタイルを活かしたまま広い壁面に保護を実施する工法

の2つに大別できます。

既存のタイル壁面をつぶし新たに新規タイル張りや仕上げを行う工法(全面張り替え)

新規仕上材としては、石材や、アクリル系防水仕上材、新規タイル張りが主流です。
新規仕上げを行うため、建物の意匠が変更されます。古い外壁を一度つぶすためはく落防止効果が大きく、公的な技術評価を受けた工法が多くあります。
国土交通省建築改修工事管理指針にも紹介されており信頼性が高い一方、新規仕上げのため大きな費用が必要になります。

既存のタイルを活かしたまま広い壁面に保護を実施する工法

新しい工法です。既存のタイルを残したままアンカーピンと透明度の高い樹脂塗膜や繊維素材を保護剤として壁面に施します。
既存の建物の意匠をそのまま残す事が可能です。
既存のタイルを生かす形の工法のため、全面張り替えに較べて工期の短縮や費用の低減が可能ですが、
その効果と耐久性が保護材の性能に依存するため、保護材の選定には特に注意が必要です。
国土交通省や、UR都市再生機構などの各種建築物管理団体が第三者認定を実施しており、そうした基準を満たしていることが重要です。またこの工法の施工に当たってはその特徴や使用方法など施工に関する知識への深い理解が必要になります。

ボンドアクアバインド工法はこの既存タイルを活かしたタイルはく落防止システムの決定版です。
ボンドアクアバインド工法はUR都市再生機構の定める品質判定試験を実施しており、UR都市再生機構の定める品質判定基準に全て適合しております。
また関西工業所は関西圏で初のボンドアクアバインド工法の施工実績を持つ認定業者です。関西工業所はボンドアクアバインド工法を推奨します。

ボンドアクアバインド工法についてはこちらのページをご覧ください。

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